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オーストラリアは英語?オーストラリア語?

Q:聞き取れないほど訛りがひどく、アメリカやイギリスからも遠いオーストラリアの言葉を「英語」とする根拠は何ですか。

A:実際のところオーストラリア英語が「聞き取れないほど訛りがひどい」というのは一種の偏見であると考えた方が良いでしょう。英語学習者の皆さんにとっては、どちらかと言えばアメリカ英語の聞き取りにある程度は慣れていることでしょうし、実際にはアメリカ英語であっても完全に聞き取れるわけではないことでしょうから、イギリス英語やオーストラリア英語など、音声面でアメリカ英語と異なっているものに抵抗を感じることはあるのかもしれません。でもひとたびアメリカ英語の音に慣れてしまえば、イギリス英語やオーストラリア英語など、少なくとも英語母語話者によって話される英語音については、アメリカ英語との特徴の違いを掴むようにすれば、さほど苦労することなく聞き取れるようになることでしょう。

これは日本語の方言の場合も同じではないでしょうか。お笑い芸人が方言をネタにすることもありますが、初めて耳にするような方言の音でもある程度聞き慣れてくると、特徴が分かって来ますね。もちろん聞き慣れている音と異なる音に拒否姿勢を示すような人であれば、なかなか難しいのかもしれませんが。

方言や訛りと言えば、どうしても中央から離れた場所で話されるイメージを持ってしまいがちですが、Wikipediaの「オーストラリア英語」の記事でも書かれている通り、方言は地方によって分類されるより、階級や学歴で分類されることの方が多いです。また、言語学の一分野である社会言語学では、方言は単に言語変種の1つとして扱われ、地方だけを基準にすることで標準的とされるものとの間の差異を考えることはありません。このことについては同様にWikipediaの「言語変種」の記事が参考になります。

ところで、言語の名称はほとんどの場合、政治的に決まるものと考えることができます。オーストラリアの言語が英語なのは、オーストラリアが英連邦王国の一つであることもその根拠に挙げることもできるでしょう。もちろんアメリカやイギリスなど、他の英語圏の国との間での人の往来も頻繁に行われています。

しかし人の往来が途絶え、国同士の関係が悪化してしまうと、実質的には同じ言語であっても、言語名が分かれてしまうことがあります。例えばインドとパキスタンは宗教上の理由などで国同士の関係は良くありませんが、インドの公用語の一つのヒンディー語とパキスタンの公用語のウルドゥー語は相互理解が可能であり、言語学的にも同一言語での変種と考えることができます。一方、日本国内でも東北方言と琉球方言の間での相互理解可能性はかなり低い場合がありますが、いずれも日本語として扱われますね。これは日本という国の政治的な理由です。

それでもなお、もし仮にオーストラリア人が自分たちの言語を「英語」ではなく「オーストラリア語」と呼ぶことを好むのであれば、それはそれで尊重する必要があるのかもしれませんね。あまり比較の対象にはなりませんが、関西人が自分たちの話す言語について、「日本語」という呼称と「関西弁」という呼称のどちらを好むか、という調査が仮にあるとしたら、おそらく後者の方が好まれるのではないかと感じます。

しかしオーストラリアにとっての経済的なメリットを考えると、彼らの言語は英語であると看做した方が何かと有利なのかもしれませんね。仮に「オーストラリア語」であると主張したりすると、それは観光収入や貿易収入にも影響を及ぼさないとも限りませんから。

ところで、オーストラリア英語についてもっと詳しく知りたいという方は、是非英語版WikipediaでのAustralian Englishのページを読んでみて下さい。音声面や語彙面など、日本語版の記事では触れられていない豊富な情報が見つかります。例えば different の後ろに前置詞をつける場合、アメリカ英語では from が一般的ですが、オーストラリア英語では to も来るといったことが紹介されています。さらにはオーストラリア国内での方言についても別の項目へのリンクで説明されています。
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